矢野経済研究所から「電子書籍市場に関する調査結果2012」が発表された。電書元年から翌2011年にかけての伸び率が7.9%という数字に、筆者のSNSタイムラインでは早々に嘆息の声も聞かれ始めたが、拙著「憂鬱な〜」で国内電書市場の拡大を阻みうる幾つかの要因(ビジネス面、読者の態度、読書性向など)を挙げている立場からは、年間8%成長はデフレジャパン〜いずれも頭打ちの国内市場の全産業平均では並み≒及第と申し上げておきたい。
多少なりとも電書市場を知る者には眉唾だった2009→2014年の最大規模の成長予測(市場規模3000億円)の半分程度に下方修正された格好だが、矢野経済研究所では今後はケータイ〜スマホなどの携帯端末よりも電書専用リーダー(タブレット含む)の普及を見込んで2012→2013年に30%程度の大きな市場拡大を予想している。ケータイ→スマホの移行が完了しても、スマホ向け電書の市場規模が700〜800億円程度にとどまる=頭打ちという見方は流石に堅実だ。
しかし筆者としては見込みが甘いと考える。いまだ確たる市場〜ユーザーベースが形成されているとは言いがたい電書専用リーダーに期待する気持ちは分かるが、想定されているのは恐らくポストPCを喧伝するアップルのiPadや、時代最先端を標榜する読書人ならまず無視できないアマゾンのKindleが中心と考えられるからだ。Sony Readerだってある、楽天もいずれKobo eReaderを投入するという指摘については、将来的な見込みはともかく現時点では無視させていただく。アップルとアマゾンが抱える膨大な顧客ベース(課金アカウント数)と、ワンクリックのコンテンツ購入〜読書開始に至る使い勝手の良さは、その他の電書リーダー環境に対して絶対的なアドバンテージがある。
それに加えてビジネス面では、アマゾンやアップルのオンラインストアから購入された製品&サービスの直接的な売上げは、既に米国側に立つ仕組みが確立されてしまっている点だ。アマゾンは米国以外は国外売上で一括するのが慣例で内訳は不明だが、アップルの四半期〜年間売上のうち日本が占める6〜8%の数字を作っているのは家電量販店など、オンラインストアや直営店以外の販売チャネルでの売上である点に注意したい。
黒船に戦々恐々としながら、当事者である出版業界人さえも魅了するフロントエンド(iPadやKindle)を擁するアップルとアマゾンの一枚岩の電書プラットフォーム。日本の人口を遙かに凌駕する数の顧客ベース(カスタマーID保有者は日本国内だけで両社それぞれ数千万人規模)。両社のワンクリック決済で購入する製品&サービスは実質的には海外通販と同じ。さらに付け加えれば、政府も微妙に絡んで緊急に増産されようとしている日本の電書コンテンツは、現時点では少なくともKindleでは読めない、iPadのRetinaディスプレイ搭載で利用者に一気に見直されているのがPDFという枯れた電書フォーマットであったという事実。
これらを踏まえてなお、電書リーダー市場の拡大と共に国内電書コンテンツ市場が1500億円規模(現在の2倍)に拡大すると考えるのは楽観的だろう。筆者は2015年時点で1000億円に到達してそれを維持しているか、むしろ下降線を描いて500〜700億円程度での推移と予想する──これは現在に至るケータイ〜スマホの狭い画面でやる読書〜市場規模の限界だ。将来的に電書による読書が本格化する前提ではスマホは主たる読書プラットフォームとは言えなくなるだろう。
話を戻そう。
筆者の考えるシナリオではむしろ出版各社の「海外売上」増加につながるので、ここで積極的にマルチ言語対応コンテンツを増やすことで、日本発の電書コンテンツを世界に拡大するキッカケにできると考えることもできる。
日本人のDNAに刷り込まれた、おっかなびっくりとワクテカが微妙に交錯するマレビト信仰は容易に克服できるものではないが、黒船に乗って世界を駆け巡る大航海時代を自ら始めるのも面白いかも知れない。
日本の電書環境は実にさまざまな要因に縛られている。それを整理・理解して客観的な思考の軸を持たれたい向きには、拙著「憂鬱な電書の夜明け」を是非ご一読いただきたい。というか宜しくお願いします
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